劇場がなぜ先端芸術を創る必要があるか考

劇場には沢山の役割があります
先端芸術を支援・製作することで多様な価値を生み出すこともその一つです
そのことについて、考えています


政治や社会通念を検証するシステムは必要だと、多くの人は感じるでしょう
それがなかったことで、国や家族や友人が脅威に直面した先人を私たちは知っているから

優秀な官僚だけに国の行く末を任せられはしない
庶民の代表であろう政治家だけに国の行く末を任せられはしない
さりとて、生活者である庶民だけで国の行く末を定めることはできない
これは日本で暮らす私たちの大多数が感じている葛藤でしょう




しかし、それじゃーどうするのか。
「選挙をしよう。」これはすごい。凄いシステムだ。このシステムを考えたヤツ、マジ神!!
でも、選挙がすべてを解決してくれるわけではない。そりゃそうだ

そこに芸術の価値があることを、現場にいる人は知っています
なぜなら、「社会を照射する力」を芸術はもっているから
もう少しかいつまんで言えば、規定概念や社会通念では見落としたり目を背けたりしがちな部分を「みえる化」する機能ですね
当たり前だけれど、「物凄く見え辛いもの」を見るのはとても難しい
角度を変えたり、明りを変えたりしながら必死にみる

「みえる」状態にしないと、自分たちの現状もわかりません。ましてや話し合いなんてとてもじゃないですができません
わたしたちが生きていくために「みえないものをみえるようにする」力は非常に大きな助けになる
時には「見ないことにしておきたいもの」、「どう頑張っても目では見えない小さなもの」をみえるようにすることも必要でしょう。こうなってくると、本当に難しい
「何とか輪郭ぐらいはみえるけれど、果たしてこれが何なのかはサッパリわからない。」
その物体が何なのか人によって判断が分かれる事もあるでしょう。むしろハッキリ肉眼で確認できる事の方がレアケースかもしれません。
だって、一緒に住んでいる家族や自分自身のことだって、みえないことが沢山あるわけじゃないですか
ましてや赤の他人や、文化的な素地が全く異なる人たちのことを「みえている」なんて言えるわけがない。少なくとも私には言えない


それでも芸術家はその「もの」に何とか光をあてて、みえるように努力をします
それでも見えなければ「きこえる」ように揺さぶったりするかもしれません
もしかしたら地面に落して「こわす」こともするかもしれません
不可能かもしれませんが「つくる」ことでものの本質を探ることもするかもしれません

その力が必要だから、先人は芸術家にものを作らせてきました
悪用する気になれば、その力は私たちの社会を危機に陥れることができる程に大きな力です
劇場に関する法律が作られているのですが、先輩の中には「国に芸術を任せてはいけない。」と言っている人もいます
まだ父や母が若かった頃に「この力」を国に悪用された事を知っているからです


先輩に言いたい
私たちが幸せに生きていくためには、「この力」を正しく使う必要があるんじゃないですか
放っておいたら、またいつか「悪用しよう」という輩が現れるんじゃないですか
この力を制御できるようにしようじゃないですか
庶民にも政治家にも官僚にも丸投げしない芸術制度がつくれないんですか



こう書いていて気がついたことがあります

優れた芸術家ほど「人によって捉え方が違うように作りたい」と言ったりします
そして多くの人はその作品をみて「みえにくい(わかり辛い)」と感じます
しかし、「人によって捉え方が違うように作りたい」というのは、おそらく手段でしかない
「みることが極めて困難なものを断片でもとらえて欲しい」という切なる願いなのだろう、と

社会通念(みえ易いもの)を照射するだけの「わかり易い作品」には、この意義はない
しかし、「理解し辛いものを、わかり易くする作品」には、この意義があります
私が尊敬するエンターテイメント作家は後者ですが、前者と混同されがちです
また、「社会通念をわかり辛くした」ペテンのような作品も残念ながら存在します

このあたりをキチンと評価できる存在が必要です。その役割を芸術家自らが担うのは困難です。これこそが地域の劇場の役割ではないでしょうか

劇場がそのような役割を果たすためには、劇場に管理人しかいないようではお話になりません
劇場に芸術の知識をもった人材を配置する必要があるのです。それは図書館に司書がいるように、博物館に学芸員がいるように、極めて真っ当なことです

しかし、その制度を具体化するために必要となる法的根拠が事実上ありません
ようやく現場レベルで実像として見え始めた「劇場法」には、劇場の働きを定義してくれるものとして期待しています

念のために書いておきますが、この記事で書いた「先端芸術を創る」というのも、劇場の役割の一つでしかありません
また、一つの劇場が劇場の果たすべき全ての機能を有するというのは現実的ではありません。時には都道府県単位をまたいで地域間で相互補助する必要に迫られるでしょう
そうしないと庶民が平等に文化体験を得ることが困難だからです
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by macaroni-2004 | 2010-04-20 20:55 | 演劇制作  

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